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【報告書】第23回HHPセミナー

平成27年12月28日 (水)

特別経費プロジェクト拠点代表 征矢英昭 教授

 所属:人間総合科学研究科

 氏名:藤本 知臣

 

23HHPセミナー報告書

 

 

Ⅰ.セミナー概要

本セミナーでは、講演に先立ち西保 岳 教授から藤井 直人 博士(Postdoctoral Fellow, University of Ottawa, Canada)の紹介(本学で学位を取得した後に、オレゴン大学でのポスドクを経て、現在、環境生理学及び運動生理学、特に体温調節反応に関する世界的権威である Glen Kenny 教授のもとで研究を行っていること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「加齢が微小血管機能に及ぼす影響:皮膚血管からの評価」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、加齢に伴う微小血管機能の変化に関わるメカニズムに関して活発に議論された。

 

Ⅱ.開催概要

主催:文部科学省特別経費プロジェクト

「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」

筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻

日 時: 平成27年12月28日 (月) 14:00-16:00

 場 所: 筑波大学体芸棟5C606

 講 師: 藤井 直人 博士(Postdoctoral Fellow, University of Ottawa, Canada)

 参加人数:30名 

Ⅲ.講演概要

セミナータイトル:「加齢が微小血管機能に及ぼす影響:皮膚血管からの評価」

 

○講演内容

最初に、毛細血管などの微小血管機能が低下することで循環疾患のリスクが高まること、また、加齢に伴う微小血管機能の変化を明らかにすることで循環器疾患リスクの低下につながる可能性があることを説明し、マイクロダイアリシス法 (皮膚における微小血管機能の測定が可能な方法) を使用して微小血管機能とその変化に関わるメカニズムについて調べたいくつかの研究を紹介した。例えば、血管拡張の因子の1つである一酸化窒素 (NO) の阻害薬を投与することで、暑熱下運動時の皮膚血管コンダクタンスは低下するが、高齢者においてはその低下度合いは小さくなるという結果を示し、この結果から、暑熱下運動時の皮膚血管拡張に対するNOの貢献度は加齢に伴い低下することを示唆した。また、NOがそれ自体の血管拡張作用だけでなく、同じく血管拡張に関わるシクロオキシゲナーゼ (COX) やKCaチャネルに関与することから、加齢に伴いNOの貢献度合いが低下することでCOXおよびKCaチャネルの関与も低下するという仮説を立て、COX、KCaチャネルおよびその両方の阻害薬を投与した状態でNO投与による血管拡張作用を調べた実験を紹介した。その結果としては、KCaチャネルをブロックした場合、若年者では皮膚血管コンダクタンスが低下したものの高齢者では低下せず、COX阻害薬を投与した場合、高齢者では皮膚血管コンダクタンスが増加したことから、若年者と高齢者では皮膚血管拡張の度合い自体に差はないが、そのメカニズムが変化している可能性があることを示唆した。

次に、COXによる皮膚血管拡張に関与するプロスタグランディンE1 およびE2 (PGE1, PGE2) による皮膚血管拡張反応が加齢により変化するか、また、加齢に伴うプロスタグランディンによる血管拡張反応とNO合成酵素との関連について調べた研究について紹介し、若年者および高齢者でPGE1、PGE2に対する血管拡張反応は同程度であったが、若年者においてはPGE1、高齢者においてはPGE2による血管拡張反応がそれぞれNO合成酵素を阻害することで低下したことから、加齢に伴いプロスタグランディンによる血管拡張反応のメカニズムが変化することを示唆した。また、同様にプロスタサイクリンによる血管拡張反応とNO合成酵素およびKCaチャネルとの関連が加齢によりどのように変化するかを調べた実験についても紹介し、プロスタサイクリンによる血管拡張反応は若年者よりも高齢者において大きく、NO合成酵素およびKCaチャネルの阻害薬を投与してもで血管拡張反応が生じたことから、その反応にはNO合成酵素およびKCaチャネル以外のメカニズムが関与している可能性についても示唆した。

最後に、オレゴン大学で行った慢性喫煙と皮膚血管拡張反応およびそのメカニズムに関する研究について紹介し、喫煙者においては皮膚血管拡張反応が低下し、それにはNO合成酵素およびCOXが関連していること、喫煙により皮膚血管拡張反応に対するKCaチャネルの貢献度合いが大きくなること、また、喫煙によるスーパーオキシドを除去することでNOの産生が増加し、加温時の皮膚血管拡張反応が改善することを示唆した。

運動生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に加齢に伴う微小血管機能の変化に関わるメカニズム等に興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。