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【報告書】第18回HHPセミナー

18HHP 特別セミナー報告書

 

 

Ⅰ.セミナー概要

本セミナーでは、講演に先立ち西保 岳 教授からJerome A. Dempsey 博士(Professor Emeritus, University of Wisconsin, Madison)の紹介(呼吸調節を主体とした運動生理学研究の世界的権威であること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「Muscle metaboreflex effects during exercise in health and disease.」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、活動筋から中枢への求心性神経入力の働きやその他の呼吸循環調節メカニズムとの関連等に関して活発に議論された。

 

Ⅱ.開催概要

主催:文部科学省特別経費プロジェクト

「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」

筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻

日 時: 平成27年3月18日 (水) 14:00-15:00

 場 所: 筑波大学体芸棟5C606

 講 師: Jerome A. Dempsey 博士(Professor Emeritus, University of Wisconsin, Madison)

 参加人数:30名 

 

Ⅲ.講演概要

セミナータイトル:「Muscle metaboreflex effects during exercise in health and disease.」

 

○講演内容

最初に、運動時には活動筋における機械的変化および代謝性変化を感知し、活動筋から中枢へ反射性の求心性神経入力が起こると考えられていることを説明し、この筋からの求心性神経入力が中枢からの運動指令(セントラルコマンド)や筋疲労とどのように関連しているかについて調べたいくつかの研究を紹介した。例えば、吸入酸素濃度を多段階に変化させることで動脈血酸素飽和度レベルを変化させた状態(活動筋における解糖系代謝の程度が異なると考えられる)で自転車運動パフォーマンステスト(5 kmタイムトライアル)を行った結果、動脈血酸素飽和度が低いほど運動中のセントラルコマンドやパワー出力は低値を示したにもかかわらず、運動終了時の筋疲労の程度には条件間で差が見られなかったというデータを示した。また、この結果から、筋疲労(末梢性疲労)の度合は活動筋からの求心性神経入力がセントラルコマンドを抑制することによって調節されているという仮説を立て、活動筋からの求心性神経入力を部分的にブロック(フェンタニルの脊髄内投与)した状態で前述と同様の自転車運動テストを行った実験を紹介した。その結果としては、筋からの求心性神経入力を部分的にブロックした場合、運動前半部はセントラルコマンドおよびパワー出力は通常より高値を示したが、その後、運動中盤から後半にかけてセントラルコマンドは通常レベルまで低下し、パワー出力は通常より顕著に低下したこと、さらに、運動終了時の筋疲労の程度や筋内の代謝性変化(筋内pH低下や乳酸値増加)が顕著に大きくなったことから、上記仮説を支持するデータが得られたことを説明した。

次に、活動筋からの求心性神経入力と運動時の呼吸循環応答との関連についてのいくつかの研究結果を紹介し、前述のように活動筋からの求心性神経入力を部分的にブロックした状態では運動時の心拍数、平均動脈血圧および二酸化炭素排出量あたりの換気量は通常より低値を示したことから、活動筋からの求心性神経入力は運動時において正常な呼吸循環応答を生じさせるために重要な役割を果たすことを示唆した。

最後に、慢性閉塞性肺疾患患者および慢性心疾患患者においては運動時に過剰な換気反応(過換気)が起こることが知られているが、活動筋からの求心性神経入力を部分的にブロックした状態では、運動時の過剰な換気反応は抑制され、さらに通常よりも運動継続時間の延長や運動終了時の筋疲労の抑制がみられたというデータを示し、これらの疾患者においては活動筋からの求心性神経入力を介した過剰な換気反応が運動パフォーマンスを制限するメカニズムの一つとなっている可能性があることを示唆した。

運動生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に活動筋からの求心性神経入力をブロックした状態でみられる運動時の呼吸循環反応の解釈や、その他の呼吸循環調節メカニズムとの関連等に興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。

 

平成27年4月30日 (木)

所属:人間総合科学研究科

氏名:藤本 知臣