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【報告書】第5回HHPセミナー

I. セミナー概要

本セミナーでは、講演に先立ち西保 岳 教授からJames Cotter博士(Assistant Professor School of Physical Education, University of Otago, New Zealand)の紹介(運動生理学及び環境生理学を専門としており、特に署熱環境下での運動時の生理的反応や脱水に関する研究を幅広く行っていること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「Acute and adaptive effects of dehydration and heat stress~脱水及び暑熱ストレスの急性及び適応効果~」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、特に脱水に対する適応や脱水による運動時の生理応答及びパフォーマンスの変化についての発問が起こり、活発に議論された。

 

II. 開催概要

主催:文部科学省特別経費プロジェクト

「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」

筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻

日 時: 平成26年8月6日 (水) 16:00-17:30

 場 所: 筑波大学体芸棟5C606

 講 師: James Cotter博士(Assistant Professor, School of Physical Education, University of Otago, New Zealand)

 参加人数:30名

 

III. 講演概要

セミナータイトル:「Acute and adaptive effects of dehydration and heat stress

~脱水及び暑熱ストレスの急性及び適応効果~」

最初に、暑熱環境は生体に対するストレスとなり、特に長時間運動時のパフォーマンスが低下するが、これは体温調節反応の低下、心血管系の負担の増加、筋活動の低下等の複合的な作用により起こること、また、これら暑熱環境下で起こる変化には熱ストレスと脱水がともに関与すると考えられていることを説明した。次に、脱水に関する様々な研究結果をもとに、脱水(体水分量の減少)により運動パフォーマンスは低下すると一般的には言われているものの、必ずしも脱水によって運動パフォーマンスが低下するとは限らない可能性があることを説明した。例えば、脱水による運動パフォーマンスの低下は特に暑熱環境下において顕著に起こる一方、低温環境下では脱水状態でも運動パフォーマンスは大きく低下しないというデータを示し、暑熱環境下における運動パフォーマンスの低下には、脱水自体ではなく、熱ストレス、または熱ストレスと脱水の相互作用が深く関与する可能性があることを示唆した。さらに、熱ストレスや脱水が運動時の生理反応や運動パフォーマンスに及ぼす影響は、脱水の程度、気流(風)の状態、運動条件、被験者のフィットネスレベル、被験者の脱水に対する慣れ等の違いによっても異なることを説明した。具体的には、暑熱環境下での運動時には風が弱い場合よりも風が強い場合の方が心拍数の増加や深部体温の上昇の程度が小さいこと、マラソンにおいて競技パフォーマンスが高い選手ほど脱水の程度が大きいという関係性があること(大きく脱水しているにもかかわらずマラソン走速度が高い)、運動鍛錬者は非鍛錬者において通常みられるような脱水による心拍数の増加が起こらないこと等を紹介し、脱水が運動時の生理反応や運動パフォーマンスに及ぼす影響を考える上では、これら実験条件や被験者の特徴の違いを考慮し、慎重にデータを解釈しなければいけないことを説明した。

最後に、脱水に対する適応について、1940年代にはヒトは脱水に対して適応しないと考えられてきたが、暑熱環境下での運動時には脱水によって様々な生理的負荷(刺激)が増大することを踏まえると、脱水に対して適応し得るのではないかとの考えを示し、実際に、脱水が起こるような暑熱環境下での運動を行った場合には、同様の暑熱環境下での運動を飲水により脱水を防いで行った場合よりも、その後の血漿量の増加が大きいことや、6日間の暑熱順化を脱水を伴うように行った場合には、脱水を防いで行った場合よりも、その後の体重増加量(血漿量の増加に由来すると考えられる)が大きいこと等を示すデータを紹介した。

 運動生理学・環境生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に脱水に対する適応や脱水がパフォーマンスに及ぼす影響等に興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。

 

平成26年8月6日 (水)

所属:人間総合科学研究科

氏名:藤本 知臣