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【報告書】第3回HHPcafe

 

I. 開催概要

主催:文科省特別経費プロジェクト「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点-最先端生命・認知脳科学の導入-」

日時:2015年11月27日(金)16 : 00-18 : 00

会場:筑波大学体育科学系B323

世話人:征矢英昭(筑波大学体育系教授・HHPコアリーダー)

講演者:毛利 彰宏(名城大学薬学部助教・医学博士)

題目:行動神経薬理研究の基礎と応用:スポーツ神経薬理創成に向けて

 

II. セミナー概要

 本講演は征矢英昭HHPコアリーダーによる講演者紹介のもと、定刻に開始された。

講演ではまず、行動神経薬理学研究および統合失調症の概要が説明された。行動神経薬理学研究では病態モデル動物を用い、個体レベルでのフェノタイプからその基盤となる神経機能の異常を対象として病態解明・新薬開発を行う。特に、精神疾患の中でも統合失調症は100人に1人が罹患する普遍的な疾病でありながら、難治性のため病態の解明・新薬開発が強く求められており、この疾病をターゲットとした行動神経薬理学研究の重要性が示された。

続いて、グルタミン酸仮設に基づく統合失調症モデル動物の妥当性について解説がなされた。統合失調症では幻覚や幻聴などの陽性症状、意欲の低下や社会性の欠如などの陰性症状、注意散漫や思考の破綻などの認知機能障害を呈す。これまでの研究から、病態の基盤としてグルタミン酸作動性神経系機能低下仮説が提唱されており、これを動物に再現する手法としてNMDA受容体拮抗薬であるフェンサイクリジン(PCP)の連続投与が有用であることが明らかになってきた。実際に、PCP連続投与マウスが病態モデル動物の妥当性として1)行動上の類似性(Face validity)2)共通の発現機序(Construct validity)3)薬物反応の特異性および力価の類似性(Predictive validity)を満たすデータが示された。

最後に、PCP連続投与による精神障害にはエピジェネティックな修飾が関与していること、発育期のエンリッチ環境がPCP連続投与による精神障害およびエピジェネティックな修飾を介した神経系の異常を抑制することが説明された。PCP連続投与マウスでは前頭前野におけるアセチル化ヒストンH3K9が減少しており、これにはHDAC5の細胞内局在が関与することが向精神薬を用いた実験データから示された。さらに、発育期においてエンリッチ環境(通常より大きな飼育ケージ、探索行動を引き出すオブジェクト等)で飼育することで、成熟後のPCP連続投与によるエピジェネティック制御を介した精神機能障害を抑制するデータも示され、発育期の環境による統合失調症予防の可能性が示唆された。

公演後、精神機能障害を評価するための行動実験、とりわけ水探索試験の手続きに関する質問や、ドーパミン神経活動とアストロサイトに関する質問、さらにアセチル化ヒストンH3K9の生理的意義についての質問などがなされ、活発な意見交換がなされた。本講義は運動が身心に及ぼす有益な効果について、精神疾患予防の観点から解き明かす方向性を示す大変有意義なものであった。今後、体育スポーツ科学と行動神経薬理学が融合し、スポーツ神経薬理学として発展していくことが期待される。

 

筑波大学人間総合科学研究科

小泉 光