【報告書】第22回HHPセミナー
- 開催概要
主催:文部科学省特別経費プロジェクト
「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」
筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻
日時:平成27年12月1日(火)16:00-18:00
場所:筑波大学 体育系B棟323
参加人数:20人
講師:Thomas, McHugh J., Ph.D.(国立研究開発法人理化学研究所 脳科学総合研究センター 神経回路・行動生理学研究チーム チームリーダー)
題目:「海馬の理解に有用なニューロサーキット遺伝学手法の応用- The application of circuit genetic approaches to understanding the hippocampus-」
- 講演概要
本講演は征矢英昭教授(HHPコアリーダー)による講演者紹介のもと、定刻に開始された。
講演では、海馬において学習や記憶が形成されるメカニズムを解明するために有用な4つの最新技術、Cre/loxPシステム、tTA、DREADDと光遺伝学に関する説明がなされた。初めにCre/loxPシステムについて説明がなされた。これは予め特定のニューロンに発現させたloxPという遺伝子配列をDNA組換え酵素Creによって削除することで、部位特異的に遺伝子をノックアウトする方法である。Creのプロモーターであるドキシサイクリンやタモキシフェンなどの薬剤投与により、条件特異的にCreを発現させることで遺伝子ノックアウトを操作することができるシステムが紹介された。これを海馬に用いることで海馬の領域(CA1, CA2, CA3, DG)特異的にニューロンの活性化を制御可能であることが示された。次にtTA (tetracycline transactivator)について説明がなされた。これは抗生物質テトラサイクリン誘導体であるドキシサイクリンの投与によって標的遺伝子の発現を調節することができ、特に、標的遺伝子の発現量の段階的な調節が可能な点や簡便性がこれまでとは違う点であることが示された。三つ目はDREDD (Designer Receptors Exclusively Activated by Designer Drugs)に関して説明がなされた。これにはGqにカップリングするGPCR(G Protein Coupled Receptor)とGiにカップリングするGPCRがあり、それぞれニューロンを活性または抑制することができる手法である。最後に光遺伝学を応用した手法である。これは光活性化イオンチャネルのチャネルロドプシン2を特定のニューロンに発現させることで、光の照射を操作することにより標的ニューロンの活性化を調節できるシステムである。これらの手法は全て、任意で特定のニューロンの活性化を制御できるものであり、実験の目的によって使い分けることが重要であることが示され、運動実験にも十分に応用可能であることが示唆された。
運動が海馬の神経可塑性を高める効果を有することが明らかになりつつあるが、その背景にある神経機構を解明するためにはこれらの手法を応用することが必要不可欠である。講演後、運動実験への応用に関して活発な質問や議論が交わされた。
所属:人間総合科学研究科
氏名:征矢 茉莉子