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【報告書】第15回HHPセミナー

15 HHP セミナー報告書

 

 

Ⅰ.セミナー概要

本セミナーでは、講演に先立ち西保 岳 教授からAlexander B. Lloyd 氏 (Ph.D. student, Loughborough University, UK)の紹介(ヒトの温熱生理学や環境人間工学、衣服科学といった研究領域で著名なHavenith教授の研究室の博士後期課程の学生であること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「The interaction between cooling and hypoxia on fatigue development.」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、運動時の筋疲労に対する暑熱と低酸素との相互作用のメカニズムや中枢性疲労の評価法等に関する発問が起こり、活発に議論された。

 

Ⅱ.開催概要

主催:文部科学省特別経費プロジェクト

「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」

筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻

日 時: 平成27年3月16日 (月) 14:00-15:00

 場 所: 筑波大学体芸棟5C606

 講 師: Alexander B. Lloyd 氏 (Ph.D. student, Loughborough University, UK)

 参加人数: 30名 

Ⅲ.講演概要

セミナータイトル:「The interaction between cooling and hypoxia on fatigue development.」

 

○講演内容

最初に、寒冷環境および低酸素環境はそれぞれ筋疲労 (末梢性疲労) を増加させること、また、これら二つの効果に相互作用はなく相加的であることを示した自身の研究結果について簡単に説明し、さらに寒冷刺激や低酸素刺激が末梢性および中枢性疲労に及ぼす影響を詳細に調べた研究を紹介した。具体的には、気温と吸気酸素濃度を変化させた4条件 (control 条件、hypoxia 条件、cold 条件、hypoxia & cold 条件) において動的な膝伸展運動を疲労困憊まで行った時の末梢性疲労および中枢性疲労を大腿神経に超最大刺激を加える手法により評価し、運動継続時間(パフォーマンス)および末梢性疲労の指標(低値ほど疲労度が高い)はcontrol 条件と比較して他の3条件で低値を示したが、hypoxia & cold 条件での低下の程度は低酸素による影響と低温による影響の相加的なものであったこと、また、中枢性疲労の指標については条件間に差がなかったことを示した。さらに、疲労感覚等の知覚的な指標の結果は運動継続時間や末梢性疲労と同様の傾向であったことを示し、寒冷および低酸素による運動パフォーマンスの低下には知覚的疲労が関与する可能性があることを示唆した。

次に、筋温が上昇することで短時間運動のパフォーマンスが向上するが、筋内での代謝産物が増加すること、また、筋内に代謝産物が蓄積すると筋内の代謝性変化を感知する受容器(筋代謝受容器)の働きにより中枢からの運動指令が減弱すると考えられていることを説明し、筋温の変化が持続的筋収縮時(120秒間)の末梢性および中枢性疲労に及ぼす影響について調べた研究を紹介した。その研究成果として、筋温が上昇することで中枢性疲労および末梢性疲労が増加する結果を示し、筋温が上昇することによる末梢での代謝産物の増加やそれに対する筋代謝受容器の反応性の増加が中枢性疲労に関連する可能性を示唆した。

最後に、前述と同様の実験モデルにより暑熱 (heat 条件) 、低酸素 (hypoxia 条件) およびそれらの両方 (heat & hypoxia 条件) が運動時の末梢性および中枢性疲労にどのような影響を及ぼすのかを検討した研究結果を紹介し、運動継続時間(パフォーマンス)および末梢性疲労の指標(低値ほど疲労度が高い)は通常の場合 (control 条件) と比較して他の条件で低値を示したが、heat & hypoxia 条件での低下の程度は低酸素による影響と暑熱による影響の単純な加算よりも小さかった(抑制的な相互作用がみられた)こと、また、中枢性疲労の指標については条件間に差がなかったことを示した。

運動生理学・環境生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に運動時の筋疲労に対する暑熱と低酸素との相互作用のメカニズムや中枢性疲労の評価法等に関して興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。

 

平成27年4月30日 (木)

所属:人間総合科学研究科

氏名:藤本 知臣