【報告書】第12回HHPセミナー
Ⅰ.セミナー概要
本セミナーでは、講演に先立ち西保 岳 教授からGeorge Havenith博士(Professor, Loughborough University, United Kingdom)の紹介(温熱生理学、環境人間工学及び衣服科学といった領域における世界的権威であること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「Clothing and Thermoregulation.」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、温度感覚や発汗の分布に関する発問が起こり、活発に議論された。
Ⅱ.開催概要
主催:文部科学省特別経費プロジェクト
「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」
筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻
日 時: 平成27年3月4日 (水) 15:00-17:00
場 所: 筑波大学体芸棟5C606
講 師: George Havenith博士(Professor, Loughborough University, United Kingdom)
参加人数:30名
Ⅲ.講演概要
セミナータイトル:「Clothing and Thermoregulation.」
○講演内容
最初に、ラフバラー大学および本講演における概要を紹介した。その後、まずスポーツ場面での衣服をデザインする時の基準として、快適性やパフォーマンスを保つために、暑熱環境下でいかに熱放散を増加させるか、また、寒冷環境下でいかに深部体温や筋温を保つかといった点が極めて重要であることを解説した。寒冷環境下では、深部温や筋温の低下を防ぐために衣服の断熱性を高めることが重要であり、特に衣服のどの部位の断熱性を高めるのが有効か等を見極めるための、身体各部位における皮膚温や温度感覚などを計測(マッピング)した研究成果について紹介した。例えば、寒冷刺激に対する感受性は特に脇腹で高いこと、また、その感受性は運動時に減弱すること、さらに、その感受性は男性よりも女性の方が高いことなどを説明した。一方、暑熱環境下では、熱ストレスや不快感がパフォーマンスに影響を及ぼすため、衣服の放熱効率を上げることが重要になる。暑熱環境下において、発汗による蒸発性熱放散は極めて重要な体温調節反応であり、この発汗率が身体各部位においてどのように異なるかを調べる研究方法(吸収剤を用いた方法)およびその研究結果について紹介した。例えば、運動時の発汗率は、胴体の前面よりも背面(背中側)のほうが高いこと、男性よりも女性の方が低いことなどを説明し、また、温熱刺激に対する感受性は、運動時に減弱すること、男性よりも女性の方が高いことなどを紹介した。さらに、実際のスポーツ現場で使われる衣服へこれらの知見を応用することで、ニーズに応じたデザインが可能になることを示唆した。
次に、いくつかの競技場面(自転車競技等)においてはウォーミングアップ後からレース開始までに待機時間があることに着目し、筋温の低下を防ぎウォーミングアップの効果を保つためのウェアの開発に関する研究について紹介した。筋温は通常35~36℃であり、筋温を2~3℃高めることで短時間運動のパフォーマンスが向上することが知られている。実際に、一般的なウェア、断熱性の高いウェアおよび電気加熱ウェアを着用したときのウォーミングアップ後の筋温および短時間運動パフォーマンスを調べたところ、通常ウェアではウォーミングアップ後30分経過時点で筋温が約1.5℃低下すること、断熱ウェアではウォーミングアップ後の筋温およびウィンゲートテストの発揮パワーが通常ウェアと差がないこと、電気加熱ウェアでは通常ウェアの場合よりもウォーミングアップ後の筋温が高く、ウィンゲートテストの最大発揮パワーが9%向上し、平均発揮パワーが4%向上したというデータを示した。
運動生理学・環境生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に全身の温度感覚の分布や発汗の分布に関して興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。
平成27年4月30日 (木)
所属:人間総合科学研究科
氏名:藤本 知臣