【報告書】第2回HHPセミナー
I. 開催概要
日時:2014年5月19日(月)17:00-18 :30
会場:筑波大学体育・芸術専門学群棟 5C606(会議室)
参加人数:35名
世話人:征矢英昭(筑波大学体育系教授・HHPコアリーダー)
講演者:藤井猛(国立精神・医療研究センター 病院精神科 医員)
題目:抑うつ気分における海馬の機能に関する脳画像研究
II. セミナー概要
本講演は征矢英昭HHPコアリーダーによる講演者紹介のもと、定刻に開始された。本講演は、①うつ病と海馬に関する先行研究の紹介、②昨年2013年「Hippocampus」に発表された論文内容の紹介、③最近行われた予備実験のデータ紹介、国立精神・医療研究センターの施設の紹介の4つの内容で構成されていた。
①では、うつ病の発症にはコルチゾールの過剰分泌による脳由来神経栄養因子(BDNF)の低下、海馬歯状回での神経新生の抑制が関与するという神経可塑性障害仮説が紹介された。これを支持するエヴィデンスとして、うつ病患者では海馬の体積が減少しBDNFも減少していること、動物実験から海馬歯状回の神経新生を障害すると抑うつ様行動を呈すること、抗うつ薬投与により海馬歯状回の神経新生が促進されることが示された。また、海馬歯状回特異的な機能であるパターン分離を要する課題の成績が低下することもわかっている。
②では、2013年に「Hippocampus」に掲載された論文 “Depressive mood modulates the anterior lateral CA1 and DG/CA3 during a pattern separation task in cognitively intact individuals: A functional MRI study.“の内容が詳細に解説された。健常な若者27名を対象に、海馬歯状回特異的な機能であるパターン分離を必要とする「見本合わせ課題」をおこなわせ、その際の海馬の神経活動を高解像fMRIにより撮影。海馬の亜領域に区分して詳細に分析した。この課題でも、類似度に応じた活動パターンの変化から歯状回/CA3がパターン分離機能を担っていることが示され、さらに、課題に正答するためには歯状回/CA3の活動が重要であることが示された。さらに、抑うつ気分を評価するBDIの得点が高いほど歯状回/CA3の活動が低下していることが示された。
③では、大うつ病、躁うつ病、健常者を対象に見本合わせ課題をおこなった結果が紹介された。予想に反して、健常者とうつ病患者との間に課題成績の差は見られず、むしろ躁うつ病患者では成績が良いという予備実験の結果は示唆に富んだ。
講演に引き続く質疑応答では、フロアからの活発な討議が行われた。見本合わせ課題やfMRIの撮影技術に関する質問がなされ、講演者から丁寧な回答がなされた。中でも、認知課題中に海馬の神経活動が低下していたとしても他の脳部位(扁桃体や前頭前野)が補完している可能性について、講演者とフロアとの間で活発な議論がなされた。
包括的に見て、本講演では、抑うつ気分と海馬の機能について最新の研究から得られた知見を元に、海馬の機能が抑うつ気分からどのような影響を受け、脳全体がシステムとしてそれにどう対処するのかという社会的にも関心の大きな問題について語られたものであった。今後、HHPが推進する研究プロジェクトとして、運動が記憶機能・精神機能に与える影響を海馬神経新生に着目し解明していく上で大変貴重な意見交換の場となった。
平成26年5月19日
HHP リサーチアシスタント
諏訪部 和也