【報告書】第6回HHPセミナー
I. 開催概要
主催:文部科学省特別経費プロジェクト
「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」
筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻
日 時: 平成26年10月3日 (金) 17:30-19:00
場 所: 筑波大学体芸棟5C606
講 師: Paola Zamparo博士(Department of Neurological and Movement Sciences, University of Verona, Italy)
参加人数:30名
III. 講演概要
セミナータイトル:「Energetics and Mechanics of Swimming ( Swimming Efficiency)」
本講演では、セミナー開始に先立ち高木英樹教授による講演者紹介が行われた。講演者のZamparo博士は、水泳中の効率を専門的に研究されている方である。効率は、エネルギーの変換過程を示した評価指標であり、変換過程の入力と出力のそれぞれに据える対象によってその評価指標が異なる。以上のことを、セミナーの前半部分において説明された。
水泳におけるエネルギーの変換過程は以下の3つに区別される。
(1) 身体で生成されたエネルギーは、熱を生成するためのエネルギーと、身体を動かすためのエネルギーに大別される。
(2) 身体を動かすためのエネルギーは、身体各部位の動作を制御するためのエネルギーと、流体である水を動かすためのエネルギーに分別される。
(3) 水を動かすためのエネルギーは、推進のために利用されるエネルギーと、推進に貢献しないエネルギーに分けられる。
また、身体で生成されたエネルギーが身体を動かすためのエネルギーへと変換した過程を評価したものが機械的効率(Mechanical Efficiency)となる。さらに、身体で生成されたエネルギーが推進のために利用されるエネルギーへの変換過程を評価したものが運動効率(Locomotion Efficiency)として定義されることを、図などを用いてわかりやすく説明されていた。
運動効率を求める際、推進のために利用されるエネルギーを評価する必要がある。これは剛体に力を伝える陸上の運動とは異なり、流体を対象とした水泳に限定された評価項目である。推進のために利用されるエネルギーは、泳者が前進するために発揮したパワーを定量することで求めることができる。さらにそのパワーは、泳者に作用する抵抗力と、その時の泳速度を掛けることで求めることができる。しかしながら、泳者に作用する抵抗力の定量は非常に困難とされている。そこでZamparo博士は、水泳中の泳者に作用する抵抗力について、セミナーの後半部分において説明された。
水泳中の泳者に作用する抵抗力には、受動抵抗(Passive drag)と自己推進時抵抗(Active drag)の2つが存在する。抵抗力に関する研究の初期になされていた内容が、受動抵抗であった。受動抵抗とは、泳者が静止している状態での抵抗力を測定したものとなる。そのため、実際に四肢を動かし、泳いでいる時の抵抗力を計測したものではない。一方で自己推進時抵抗とは、実際に泳動作をおこなっている泳者の抵抗力を計測したものである。そのため、受動抵抗よりも自己推進時抵抗は、個々の泳技能による抵抗力の違いを反映する指標である。しかしながら、自己推進時抵抗の計測は非常に困難であるため、現存する方法論では様々な限界のもと行われている。そこでZamparo博士は、自己推進時抵抗を測定する過去の方法論について、それぞれの原理と限界について説明された。例えば、測定機器は高価であるが測定が簡単であるもの、安価で測定が簡単であるものの測定対象が限定されるもの、そして様々な測定を可能とするが計測に多くの時間を要するもの等である。しかしながら、いまだ正確な自己推進時抵抗を計測することはできておらず、さらに様々な限界や制限により幅広く測定できない現状をわかりやすく説明されていた。
セミナーの最後には、Zamparo博士が現在取り組まれている研究内容について紹介されていた。ここでは数式などを用いて、論理的にわかりやすく説明されていた。この分野を専門とする参加者には、非常に学ぶことの多い、強い関心を抱く内容であった。
総合的に水泳に関する内容ではあったものの、水泳を専門としていない参加者にもわかりやすく説明されていた。そのため、生理学分野の教員や学生にとって興味深い内容が多く、セミナー後の質疑応答では活発な議論が交わされた。本分野を専門とする研究者は国内にも点在するものの、Zamparo博士ほど広い分野を対象に、さらに専門的に深くやられている方は非常に少数であるため、本セミナーは我々にとって非常に貴重な経験となった。
平成26年10月20日 (月)
人間総合科学研究科
酒井紳,成田建造