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【報告書】第9回HHPセミナー

I. セミナー概要

 本セミナーでは、講演に先立ち西保岳教授から Glen Kenny 博士(Professor, University of Ottawa,Canada)の紹介(環境生理学及び運動生理学、特に体温調節反応に関する世界的権威であること)と招聘の意義の説明がなされた。その後、「Understanding the impact of exercise-induced increases in energy expenditure on heat balance in older adults and individuals with chronic disease: a calorimetric perspective.」のセミナータイトルで講演が行われた。質疑応答では、暑熱ストレスへの反応にかかわる要素や暑熱に対する適応に関する発問が起こり、活発に議論された。

 

II. 開催概要

主催:文部科学省特別経費プロジェクト

「ヒューマン・ハイ・パフォーマンスを実現する次世代健康スポーツ科学の国際研究教育拠点」

筑波大学大学院人間総合科学研究科 体育科学専攻・コーチング学専攻・スポーツ医学専攻、システム情報工学研究科、知能機能システム専攻

日 時: 平成26年10月10日 (金) 16:30-18:00

 場 所: 筑波大学体芸棟5C606

 講 師: Glen Kenny博士(Professor, University of Ottawa,Canada)

 参加人数:30名  

 

III. 講演概要

セミナータイトル:「Understanding the impact of exercise-induced increases in energy expenditure on heat balance in older adults and individuals with chronic disease: a calorimetric perspective.」

講演内容

最初に、ヒトの深部体温は熱放散と熱産生のバランスから成り立っており、これらのバランスは年齢や性差をはじめとする内的要因と湿度や気流をはじめとする外的要因に影響を受けることを説明した。次に、Kenny博士が実験で使用している世界でも数の少ない放熱量測定装置(直接身体から放出された熱を測定するカロリーメーター)の構造と原理について解説し、その装置を用いた研究成果を紹介した。例えば、若年者と高齢者において、安静時に暑熱ストレスを負荷したときの熱収支バランスの経時変化のグラフを示し、若年者は時間の経過に伴って発汗による蒸発性熱放散が徐々に増加することで熱収支のバランスが維持される一方、高齢者は発汗による蒸発性熱放散の増加が比較的小さいため熱収支のバランスが大きく崩れ(産熱量に対して放熱量が少ない)、結果として熱貯蔵量が多くなり熱中症等のリスクが高まることを説明した。さらに、暑熱下運動時の蒸発性熱放散反応についても、加齢による差、性差、糖尿病の罹患の有無による差が確認されており、これらの要因によって暑熱下運動時の熱収支バランスは影響を受けることを説明した。

その後、暑熱順化による暑熱下運動時の蒸発性熱放散反応の変化について、順化0、7、14日目と順化が進むにつれて蒸発性熱放散量が増加するが、その増加の程度は特に0日目から7日目が顕著である一方、7日目と14日目では大きな差は見られないことから、暑熱順化によって暑熱下運動時の熱放散向上効果を得るには最初の7日間が特に重要であることを示唆した。さらに、順化14日目以降では、暑熱下運動時の熱貯蔵量が徐々に順化前の水準に戻るといった驚くべき結果を示し、暑熱順化が暑熱下運動時の熱収支バランスに及ぼす影響を理解するためには更なる研究が必要であることを示唆した。

最後に、現場への応用という観点から、一般人や労働者がどのように暑熱ストレスに対処するかについて、暑熱に対する生体の応答や適応現象への理解を深めることや、雇用主がしっかりとした暑熱への対策措置責任を果たすことが重要であることを示唆した。

 運動生理学・環境生理学分野の研究を行っている教員・大学院生をはじめ、参加者は特に暑熱ストレスへの反応にかかわる要素や暑熱に対する適応等に興味を持ち、活発な質問や議論が交わされた。

 

平成26年11月7日 (金)

所属:人間総合科学研究科

氏名:藤本 知臣